この恐竜を動かす為の機構には電気的な部分と、人間の動きや力を利用する部分の2種類があります。人間の動きの部分、つまり恐竜の操縦(私達は”操演”と呼びます)は基本的には中に入ったパイロット1名が行っています。完全なロボットと間違われることも多いですが、この巨大な恐竜の動きの大部分はパイロット1名の人力と操演技術で制御されています。
電気的な機構は、おもに周囲の状況把握や、外部との通信、パイロットの体調管理などに使われます。残念ながら恐竜の中はお見せできませんが、いわゆるアニメのロボットのコクピットのような光景を想像して頂ければ近いかもしれません。
アロサウルスやティラノサウルス等の肉食恐竜は前後に長く、二足で自立して歩きます。このフォルムをキープしたまま自由に、リアルに動かすにはどうしたらいいか?トライ&エラーの繰り返しの日々です。
歩けるだけでは、ダメです。あたかもそこに恐竜がいるかのような、リアルな動きをさせる必要があります。私達が一番こだわっているのはそこで、DINO-TECHNEの独自性はそのリアリティに集約されます。開発スタートから数年を経て、最近やっと自分たちでも納得できる構造になってきました。
この、「自立二足歩行する大型動物を人間が操作し動かす」という構造は、調べてみると世界初のものでした。私達はすぐに国内外主要国の技術特許を取得しました。(注1)
私達はこの「恐竜型メカニカルスーツ」を"DINO-TECHNE"と名付けました。
(注意1:自立四足歩行する大型動物でも特許をとれました。)
遥か太古にしか存在しなかった恐竜達に出会う為には、どういった仕掛けが必要か。ライブショーという空間の中で人々が恐竜を「実感」するために、最低限必要な要素とは何か。私達は常にそれらの事を念頭に置きながら恐竜の制作に取り組んでいます。
1.安全性
恐竜ライブでDINO-TECHNEは会場狭しと自由に歩き回り、ときには観客を威嚇し、ときには観客や飼育員に咬みついたりと、激しい動きを繰り返します。観客の間近でリアルに動く事は、「恐竜体験」にとっては必須の条件です。迫力のある動きでも観客に危険がない様、とりわけ歩行に関する機構には細心の注意が払われています。
2.機動性
肉食恐竜を演じるなら、必要に応じてかなり機敏に動く必要があります。
そこで問題になるのは機体の重量です。重量のある機体は満足に動かす事すらできません。
中で動きを制御しているパイロット、そのなかでも操演の上手なエースパイロットは、意外にも体力タイプではなく中肉中背の人間がほとんどです。
パイロットの演技力を活かすためにも、恐竜の体にはF-1のボディと同じドライカーボンや軽量樹脂ネジなど、出来るだけ軽い素材を使い、かつ頑丈に設計し作らなければいけません。
3.リアリティ
私達人類は誰もまだ、白亜紀やジュラ紀当時の実際の恐竜を見た者はいません。
ですので「リアルな恐竜を体験」と、誰も見たことがないのにリアルという言葉を使うのもおかしいかもしれません。
私たちは、人が入り動かすという大きな制約がある中、骨の構造や他の動物の動きを参考にしできるだけリアルな動きを作り出そうとしています。
一番参考にしているのは勿論、恐竜の子孫といわれている鳥類です。
そういうわけで恐竜パイロットのトレーニングは、大型の鳥の観察や動き、仕草の研究から入る為、トレーニングの初日には私達は鳥の真似をする奇妙な一団を見ることになります。
恐竜との出会いという特別な「体験」を通じ、遥か太古の地球に思いを向ける──。
そしてその思いの延長上にある、地球環境の問題や絶滅危惧種などにも関心を寄せていく──。
ライブを続けるうちに私達が気づかされたのは、「恐竜」というアイテムが持つこういった教育的な側面です。
こういった教育的な関心につながる娯楽の事は「エデュテインメント Edutainment」と呼ばれています。
日本ではまだ広まっていないエンターテインメントのジャンルで、「エデュケイション Education(教育)」と「エンターテインメント Entertainment(娯楽)」を合体させたものです。
ある小学校の体育館に、アロサウルスがサプライズ登場したことがあります。
子供達だけしかいない場所でのライブはそれまで行ったことがなかったので、どんな反応になるか、不安もありつつも楽しみでしたが、会場内は我々の予想をさらに上回る熱狂に包まれました。
「こんな活き活きとした子供達はいままで見たことがないです。」
会場を後にする際、教頭先生にこう言われ、大変感謝されました。
恐竜と遭遇する時、人々には様々な感情が同時に湧き起こるようです。
DINO-TECHNEによるこの「恐竜体験」は、人間の中の深い部分にある、何か原始的な感覚を呼び覚ます特別な出来事なのかもしれません。
東京藝術大学デザイン科を卒業後、NHKの美術制作部に入局、その後、退局しミュージシャン、現代アーティストとして活動。
「ジュラシックパークに出てくるような恐竜に実際に出会えたら・・・」
そんなシンプルな夢を実現させるため造形美術会社ON-ARTを立ち上げる。
ON-ARTでは恐竜の他にトリックアートや巨大バルーン等、
様々なアイデアと技術を盛り込んだ"新しい造形美術商品"を開発している。